挑戦者と支援者をダイレクトにつなぐ新しい資本市場をつくる

「証券会社はもう要らないの?!」――そんな大胆な取り組みが、金融のど真ん中から出てきた。
2019年の秋にNRIと野村ホールディングスが合弁でつくった新会社「BOOSTRY(ブーストリー)」がその発信源だ。
NRIからはブロックチェーンの技術者やITをビジネスにつなげていく敏腕のコンサルタントが、
野村ホールディングスからはファイナンスや法律、税務などのプロフェッショナルが集まり、
ブロックチェーン技術を活用した次世代の金融ビジネスをつくるために活動を始めた。
いったいどんな世界が拓かれようとしているのだろう? 

周藤一浩Kazuhiro Sudo
株式会社 BOOSTRYCOO(Chief Operating Officer)

「貯蓄から投資へ」。叫ばれ続けて20年

「貯蓄から投資へ」というスローガンを耳にした人は多いはずだ。もう20年近く、ずっと言われ続けているのだから。つまり、20年経ってもまだこの叫びに意味があるほど現実はまったく変わっていない。実際、家計が保有する金融資産の総額約1,850兆円のうち、現金・貯金が約1,000兆円※と今なお5割以上だ。理由ははっきりしている。魅力的な投資ができる仕組みがないのだ。周藤が言う。※2020年3月現在、日銀調査
「資金を調達しようとする人は、証券会社などに仲介を依頼するわけですが、長い時間と大きなコストがかかるので、数十億円、数百億円といった資金を必要とする人ばかりなんです。取り扱われるのも株式や債券など無味乾燥なものばかり。投資家側もほとんどがプロで、個人でも相当慣れた人に限られています」。
これではいくら投資を誘っても、人々の重い腰は上がらない。ところが20年来変わらないこの状況に大きな風穴を開けようとしている技術がある。ブロックチェーンだ。

ブロックチェーンとは:
分散型の取引記録管理技術のこと。インターネット上の複数のコンピューターが全ての取引記録を相互監視しながら共有する。今までできなかった、第三者に頼らずに信頼のある価値の交換が実現できる。金融取引だけでなく、不動産取引や物流など多くの分野における権利の流通への活用も可能だ。

BOOSTRY誕生。金融の本流が生んだ「革命児」。

ブロックチェーンの大きな可能性に野村ホールディングスも注目した。グループのN-Village(エヌビレッジ)が、NRIの技術的なサポートを受けながらブロックチェーンを使った取引仲介プラットフォームibet(アイベット)を開発した。ibetを使えば、すべての権利が簡単に移転、利用できるようになり、支援を必要とする挑戦者と支援者が直接つながる。今までにないダイレクトで魅力的なデジタル資本市場が生まれることになる。引き続き具体的な事業の検討と担い手となる組織作りが進んだ。「新しい組織には、大胆な発想や迅速な意志決定、アクションが求められます。野村ホールディングスやNRIの内部部門という枠には収まりません。そこで両社で新たに合弁会社をつくることにしました」と周藤。
ibetの開発メンバーを核に、周藤を含む12人が集まった。社名も、挑戦(Try)を後押し(Boost)するという趣旨でBOOSTRYに決定。金融の本流から生まれた「革命児」にマスコミも大注目だった。

社債を買うとコーヒーチケットがついてくる?!

2020年春、BOOSTRY は日本初となるデジタルアセット債を発行した。発行企業はNRI。証券会社を経由せず、自社の携帯アプリを使って直接投資家に販売した。利息は金銭ではなくカフェで利用可能なポイントで受け取るというユニークな設計だ。
「出資を募るということはファンを獲得するという意味もあるはずです。ところがこれまでの資本市場には、金利という金銭面以外の価値を提供する仕組みがありませんでした。台帳管理がしっかりできるブロックチェーンであれば権利の多様で複雑な設定や流通も簡単なので、今回のカフェで使えるポイントのように、出資に対してさまざまなトークン(デジタルの権利証)を発行し、それを梃子にファンになってもらうことができます」と周藤。
今までにない出資のスタイルが生まれ、出資の楽しみが生まれる。こうしたことこそ資本市場を開かれた楽しいものにしていく力を持つとBOOSTRYの若きCOOは未来を語る。

競争を共創へ。金融をデジタルでもっとおもしろく

今後BOOSTRYの事業を発展させていくためには、2つの意味で「共創」が重要だと周藤は考えている。「第一には、金融と技術を融合した新しい価値を生み出していくために、金融のプロフェッショナルが技術を学び、技術のプロフェッショナルが金融や法律を学ぶということ。お互いの限界点を理解し、新しいチャレンジをしていく姿勢が重要です。そして第二には、仲間をもっと増やすこと。ブロックチェーンという技術は、異なる参加者がデータを共有することで価値が高まるという世界観を持っています。1社で頑張ってもまったく意味がない。さまざまな業界のさまざまな企業が協力して新しいものを創り出す。“競争”を“共創”に変えるのは簡単ではありませんが、だからこそチャレンジしていく意義があると思っています」。

「社員になって、今が一番楽しい」と周藤は言う。「誰かのものではない自分たちのビジョンの実現ために日々知恵を絞りいろいろな施策を打っていく。充実しています」。
デジタルで日本の金融を変えるという大きな目標に向かってBOOSTRYは歩み続ける。

※内容はインタビュー当時のものです。